◆あらすじ

昭和三十一年、三月。
敗戦から十年が過ぎ、在りし日の姿を取り戻しつつある街、東京。
私立探偵の時坂玲人は、井の頭公園にてひとりの少女から変わった依頼を受ける。

「捜して欲しいんだ。――私を。本当の、ね」

同時期、巷では奇妙な猟奇犯罪が多発していた。
少女ばかりが誘拐され、身体の一部と子宮を切除されて殺される。
警視庁捜査課の魚住夾三は、昔馴染みで元同僚の時坂に事件の調査を依頼する。

保谷町の端にある、私立櫻羽女学院。
時坂の妹紫が通う此処で、女学生がふたり行方不明となっていた。
学院の教頭の佐伯時生は、紫の兄である時坂に行方の捜査を依頼する。

時坂は三つの依頼を同時に受けた。
佐伯の頼みを聞き入れる形で女学生の情報を探る為に櫻羽女学院へ教師として潜入する。

そこで――彼女と再会した。
朽木冬子。私を捜して欲しいと依頼した少女。
彼女は鈴の転がるような声で、少年のような口調で言う。

「やあ――また逢ったね、探偵さん」

犠牲者は増えてゆく。
簡単に思われた女学生の捜査すら儘ならぬ事態。
行方不明者と身元不明の遺体との数が合わない。

そして新たな犠牲者に選ばれたのは――

終わらぬ惨劇の輪廻。
新たな事件と共に訪れる、六年前の事件の謎とは――?

悲劇だらけの世界の殻を打ち破るのは、少女の微笑みなのかもしれない。


◆キャラクター説明

朽木冬子 【朽木 冬子(クチキ トウコ)】
大人びているが大人っぽい訳ではない、大人でも少女でもない生き物。 外見は美少女だが、少年のような口調で話す。その声は鈴を転がすような軽やかなもの。 現在の自分と言う存在に言い知れぬ違和感を覚えており、探偵である時坂に「本当の自分」を探して欲しいと依頼してくる。 「探偵を尾行したらどうなるだろう?」と思い立ち本当に実行してしまうような意外性もある。
水原透子 【水原 透子(ミズハラ トウコ)】
内向的で世間知らず。お嬢様ぞろいのクラスで劣等感を持っている。 おとなしそうに見えるが非常に感情的になりやすい。 冬子とは親友同士だが、逆に冬子以外には心を開いていない為ほとんど友人も居ない。 男性恐怖症でもある為、時坂が冬子に近づくのを快く思っていない。
葉月杏子 【葉月 杏子(ハヅキ キョウコ)】
喫茶『月世界』のオーナー。 主人公・時坂とは腐れ縁の仲で時坂の過去を知っている人物のひとり。 実は未亡人で、親の勧めで受けた見合いの相手と結婚していた。 時坂のことは『時坂くん』と呼ぶ。友達以上恋人未満が長く続いたせいで定着してしまった呼び名。 基本的に真面目で世話好きなのだが、店の物を片付けられないというずぼらな一面も。
時坂紫 【時坂 紫(トキサカ ユカリ)】
時坂の年の離れた妹。他のヒロインたちと同じ私立櫻羽女学院に通っている。 兄を陰から支える少女。兄への献身ぶりは伴侶のそれに近い。 兄妹揃って亡き両親の学者気質を受け継いでいる。とりわけ紫は昆虫に造詣が深い。 家事全般を完璧にこなす。紫が掃除してくれないと自宅も事務所もどうなるかわからない。 おとなしく物静か。だが暗いわけではなく社交的である。
四十宮綴子 【四十宮 綴子(ヨソミヤ ツヅリコ)】
好奇心旺盛で楽天家。紫のクラスメイトで親友同士。 文学少女で現役女学生にして現役作家。 当然学院には内緒で執筆している。その上別名でカストリ雑誌にも投稿していたりもする。 時坂により『名前が言いづらい』という理由で勝手に『トジ子』というあだ名をつけられてしまう。 興奮すると時折博多弁が出てしまう、明るく快活な少女。


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